『認めろよ』


自分の中から自分の声がする。


『認めちまえ、認めれば楽になる』


ドキン、と胸が高鳴った。悪魔の囁きは、けれどもとても甘美だ。


『何でそんなに頑張る必要がある?』
『あいつは大事に大事にされている宝石で、お前はただの道端の石ころに過ぎないのに』
「うるせぇ…!」
『醜い石ころがどんなに足掻いた所で、宝石になど敵うはずないのに』
『近くに居れば居るほど、影は光に敵わないことを知るのに』

『負け犬のお前がいくら頑張ってもサラブレッドの足元にも及ばない事くらい…本当はわかってるんだろ?』


突きつけられた言葉に、カッと目を見開いた。同時に、締め付けられる胸が酷く痛い。
苦しくて、苦しくて、掻き毟る指先に薄い皮膚が擦れ赤く血が滲む。
負け犬なんかじゃないと強く思った所で、どろどろと溢れ出す黒い感情が脳を侵食して全身を蝕んでいく。
絡みつく枷が、こんなにも重い。


『可哀相なスケープゴート』
『お前が居るから光は輝いたのに、皮肉だな。お前のお陰で輝いた宝石はもう、お前の事なんて見てもいない』


そうだ、わかっていた。
最初から自分とあいつは同列なんかじゃなくて、自分はずっとずっと、後ろの方に居たこと。
その背中を妬んで、がむしゃらに自分を追い込むことしか出来なかったこと。
追い込んで、それがいつしか相手を陥れることに力を注いでしまったこと。

思い出して、思い出すたびにぼろぼろと心が崩れ落ちる。
きらきらと闇の中で輝いて、輝いて…けれど最後には輝きを失くし落ちていった。
暗闇に散らばった心の破片
それすらも輝かないことに、俺は―――
俺の顔をした悪魔によって頭上へ振り撒かれた薔薇の花びらが、一層自分を惨めに引き立てていた。



(ただ、一度でも輝き方を知りたかった)




2008/1/22/mikami*mikami